「猫を棄てる」 村上春樹
本屋さんでこの本を見かけたときには驚いた。
あの村上春樹が自分の父親をテーマにしたエッセイを書いている!!
これはハルキストなら刮目したのではないだろうか。
ハルキストと名乗るほどではない私でも「これは…」と戸惑ってしまった。
なぜなら村上春樹という人は、親子というテーマには常に一線引いていたからだ。
これまでもエッセイでは両親と「あまりうまくいっていない」「距離がある」ということは、語られてきた。
そして自身に子供がいないということもあってか、小説の中に親子はほとんど登場せず、出てきてもどことなく作り物(騎士団長殺しの主人公と娘とかね)のような、血の通ってなさが見受けられた。
なのでこの先もこのテーマには触れずに行くんだろうな、と思っていたのに、そんな思い込みをぶち破ってくれました。さすが村上春樹。
読む前は「猫を棄てる」というタイトルから、愛猫家の作者が猫を捨てさせられた恨みをネチネチ書いていたらどうしよう、と思ったのだが読んでみて、うん、そうだよね、そんな単純じゃないよね、と。
ここからは完全に私の推測。
父から子に託された想い(簡単にまとめすぎているのは分かっている)があって、それを子供を持たない村上春樹は、そして作家でもある村上春樹は、こういうかたちで次に繋げたんだな、きっと。
あとひとつ。
村上春樹はそろそろ先を見据えた仕事をしているのだはないだろうか。
いつまでも若いイメージだけど、もう71歳。(長生きしそうだけどね)
この辺りでしこりの一つを解消しておきたかったのかもしれない。
思い返してみれば『職業としての小説家』で小説の書き方をつまびらかにしたりもしている。
これは自分のあとを受け継ぐ世代のことを考えての行動とも考えられる。
そういえば前にそういう時間があれば小説に使いたいからテレビやラジオには出演しないと言っていたけれど、今は不定期で『村上RADIO』もやってるし、やっぱり何か心境の変化があったのではないか。
まぁただのきまぐれの可能性もあるけども。
最新小説の『一人称単数』は短編集なので今から楽しみです。
図書館の予約がまだ始まっていないので、いつ読めるかさだかではないけれど。
本人は長編小説家とおっしゃってますが、私は短編の方が好きです。