「直筆の漱石 発見された文豪のお宝」 川島幸希
大型書店の作家論コーナーに行くと、夏目漱石関連本の多さに毎度驚く。
それほどまでに漱石は愛されている。
何を隠そう私もそのひとり。
どのくらい好きかというと、新潮文庫で集めていたのに、注釈などが充実している岩波文庫に買い換えるぐらいだ。
なかでもいちばん好きなのは『行人』。
漱石作品の中ではわりとマイナーである。
だからといって通ぶりたいわけでもないし、なんなら最も優れているのは『こころ』だとも思っている。
ではなぜ『行人』なのか…は別の機会に。
この『直筆の漱石』は作者によって収集された、漱石の反古原稿(その裏の落書き)や友人知人に贈ったサイン入りの献本などから、漱石研究に新たな光を当てている。
それだけなく全集未収録の新資料まで発見している!
漱石に関しては研究され尽くしているといっても過言ではないし、まだ出ていない資料を探し出すのはほぼ不可能に近いのではないか、と思うのだが作者によるとまだどこかに眠っているだろうとのことだ。
経験者だけに説得力があるし、親切にも探す方法まで教えてくれる。
それにしても作者の漱石に対する知識と造詣の深さ(ネットオークションなどでこれは未発見資料ではないかとすぐに察知することができるレベル)には脱帽である。
そして本書を読んで私が最も驚いたのは、近代文学研究者があまり資料を重視していないという指摘である。(風向きは幾分変わりつつはあるらしいが)
捨てた原稿から推敲のあとをたどられたり、友人に宛てたハガキから○年○月○日に何をしていたかまで調べられるのは、漱石からすれば困ったものかもしれないが、私はとても面白く読めた。
今後もっと資料に準拠した漱石研究がなされること、また作者による新たな新資料発見に期待したい。