「メインテーマは殺人」 アンソニー・ホロヴィッツ
同じ作者の『カササギ事件』がおもしろかったので図書館で予約したのはいいが、忘れた頃にようやく順番が回ってきた。
最寄りの図書館は長期休館に入る前は通常より貸出期間が長くなる。
そこでこの本以外にも数冊まとめて借りてきた。
まずはそちらを片付けてから、こちらは年末年始の休み中にゆっくり読もう、と思っていたのだが誘惑に勝てず、ついつい先に手が伸びてしまった。
『カササギ事件』には大きな仕掛けがあったので、本作ももしかしたら…と警戒していたのだが、結論から言うとそんなものはなかった。
代わりに小さな仕掛けがところどころにあって、最終的にうまく回収される。
その手際が見事だ。
本作はワトソン役に作者と同名の人物が配されている。
職業も同じ作家・脚本家で、作者と同じようにホームズの続編を書いたり、作者が実際に携わっている実在のテレビドラマの裏側が語られたりもする。
そのほかにも実在の有名人がそのまま出演したりと、まるで現実と地続きの世界のようだ。
だが、ここで気をつけなければいけないのは、モデルにしているのは間違いないにしても、小説に出てくるホロヴィッツがイコールでこの本の作者ではないし地続きの世界でもない、ということだ。
(ワトソン役に作者と同名の人物をもってくるのは、有栖川有栖ぐらいしか心当たりがないのだが、そのアリスくんがどんな人物だったか数作読んだはずなのにとんと思い出せない)
ミステリーを書く上でワトソン役は読者より少しバカでなければならない、とどこかで読んだ記憶があるのだが、たしかにそういう書かれ方をしているものは多い。
読んでいて「なんでそんなことも分からないだ!こいつは!」と言いたくなることはよくある。
さらに腹立たしいのはホームズ役が「実は〜」などとこちらが喝破していたことを得々と語りだした日には噴飯ものである。
しかし本作には、その心配はない。
作者がモデルと思わしき人物は暗愚なワトソンではなく、我々が推理した事柄(例;あいつとあの人は裏で繋がってる?)を終盤まで待たずにホームズ役にぶつけてくれる。
ワトソン=私となる箇所が多々あるのだ。
そうしたワトソン(私)の推理をホームズ役に論破される。
ここにこの小説独特の面白味があると思う。
このホームズいやホーソーンがかなり嫌なやつなので、否定されたときは本当に悔しい。
しかもフェアだ。
結末に至る伏線はきちんとアンテナに引っかかるレベルで書き込まれている。
だが他の魅力的な伏線に惑わされ、すぐにその糸口を見失い、見当違いな方向に誘導される。
してやられた!
というわけで続編の『その裁きは死』もすぐに予約することにしたけれど、まだ当分回って来そうにはない。