静かな生活

本、音楽、その他諸々の生活記録。同性年下の恋人あり。

「荷風追想」 多田蔵人編

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4月30日は永井荷風の命日にあたる。

ということを、この本で知った。

そこに合わせたわけではないけれど、偶然読了日が命日に重なったので、少し感想など残しておきたい。

 

私は作家個人の人柄に触れることの出来るこの追想シリーズ(?)が好きで、先に出ている「漱石追想」「芥川追想」も読んでいる。

実を言えば、上記2人に比べ私が読んだ荷風の作品数はかなり少ない。

現在手元にあるのも「濹東綺譚」ただ1冊だけである。

 

だが荷風の人嫌い・おしゃれ・変人というイメージはしっかりと私に根づいている。

それは映画「濹東綺譚」から来ていて、そのせいで荷風の姿形を想像すると嶋田久作の方が余程似ているにも関わらず津川雅彦がちらちらと浮かんでくる。

 

さて、読後そのイメージがどうなったか。

結論から言えば、特に変わりなかった。

荷風はずっと荷風だったんだろう、という私の予想は翻らなかった。

 

外見は、洋装したかと思えば和装一辺倒になり、また洋装、最後は汚れたり綻んでいても無頓着になるなど、その一生を通して激しく変化する、

だが、中身は何も変わっていなかったのではないだろうか。

自分が定めた信念にのっとて他人の言うことに耳を貸さず、自分自身を最後まで貫く。

その辺りを三島由紀夫が己も重ねた上で“青年の木乃伊”と評したのには拍手をおくりたい。

 

ここに集められた59人は多彩だ。

太宰や谷崎など誰もが知る有名作家はもちろん、荷風が尊敬してやまない鴎外の子どもたち、元妻、元愛人、教え子、1回しか会ったことがない人、同じ店にはいるが遠くから眺めただけの人……。

 

荷風にまつわる印象もまた人それぞれで面白い。

晩年の荷風の作品や生き方(誰にも頼らず独り死ぬ)を批判する人も知れば、褒め称える人、憐れむ人など様々だ。

 

漱石や芥川に比べて悪口も多い。

中でも声を出して笑ったのは吉屋信子の回想だ。

澄まし顔の荷風と、怒りを滲ませながらペンを走らせている信子を想像するだけで吹き出してしまう。

とても荷風らしいエピソードで私は好きだ。

 

先生にしたいのは漱石、友達になりたいのは芥川、荷風は……正直思い浮かばない。

敢えて言うなら本人には近寄らず、ただ作品だけを楽しむ関係か。

今と何ら変わりないけれども。

 

しかし荷風ならそれを最も喜んでくれるのではないだろうか。