「つけびの村」 高橋ユキ
人の噂も七十五日。
これを短いと感じる人は少ないのではないだろうか。
さらに閉鎖されたコミュニティで逃げ場がなければ特に…。
たまにはノンフィクションでも読もうかと手にとった1冊。
内容は2013年に起きた“山口県連続放火殺人事件”を追ったものだ。
事件名ではピンとこなくても加害者宅の窓に貼られた川柳『つけびして 煙喜ぶ 田舎者』といえば、思い出す人も多いはずだ。
事件直後は、犯行予告っぽいその不気味な川柳の存在や、土地に馴染めず村人からイジメを受け恨みを募らせた上での犯行だ、などという情報がテレビニュースやネットで大々的に報じられていた。
私も当時まるで八つ墓村のもとになった“津山事件”のようだな、と思った記憶がある。(本書にも言及あり)
読んでいてゾッとしたのは、この本だって大部分が“うわさ話”で成り立っていることだ。
作者は何度も村を訪れ、村人や近隣住民、事件関係者から話を聞いていく。
その中で例の川柳はどうやらこの事件には関係がないということ、村人のために購入し燃やされたという草刈機が実はその存在自体が怪しいこと、など次々と証言を得ていく。だがこの話し手の主観が入った伝聞は“うわさ話”とどれほど違うのだろう。
終盤で村の生き字引と評される人が「10年後に話す」と口を閉ざしていた真相(?)が、状況の変化によって最終的に明かされるが、これもまたその人の見解、そして口に出して語られこの本に書かれたことで、それもまた“うわさ話”として歩きだしてしまうのではないだろうか。
“うわさ話”の中身が真実かどうかなど、この際関係がない。
結局のところ、閉鎖的コミュニティでの疎外感と威力を持つ“うわさ話”が、加害者の妄想性障害を増長させ事件に発展した、ということか。
普段小説ばかり読んでいるせいか、どことなくスッキリしない。
これはフィクションじゃないのだから、といわれればそれまでなのだが。
また文章がするすると頭に入ってこず、ところどころつっかえた。
これは単に相性の問題だろう。
都会的無関心に慣れた私には、田舎暮らしは難しそうである。