静かな生活

本、音楽、その他諸々の生活記録。同性年下の恋人あり。

「祝祭と予感」 恩田陸

f:id:konnavy:20200607215016j:plain


恩田陸の小説はかなり昔に『夜のピクニック』『ネバーランド』『木曜組曲』を読んで以来手にとっていなかった。

なんとなく文章が合わない。

時々出てくるマンガの吹き出しのような表現に興醒めするのだ。

 

そんなわけで少し前に手にとった『蜜蜂と遠雷』は、なぜ読もうと思ったのか思い出せずにいる。

映画化や文庫化で話題になっていたからだろうか。

直木賞を獲ったことは読み終わった後知ったから、それが原因ではないはずだ。

 

とにかくあまり期待していなかったのだが、読み始めると予想に反して楽しく、ぐんぐんと読めた。

ピアノコンクールを舞台に参加者であるコンテスタントやその家族、友人、先生など多彩な登場人物が物語を彩っていく。

演奏シーンでは耳で聞く音楽を言葉にするのは難しそうなのだが、性格や資質に合わせて見事に書き分けている。

単行本の上下巻を一気に読み通し、とても満足してページを閉じた。

 

前置きが長くなったが、『蜜蜂と遠雷』の読了後すぐに番外編であるこの短編集を図書館で予約した。

 

だがしかし今回は逆の意味で予想に反していた。

同じ作者なのか疑うレベルの文章のまずさに唖然とする。おまけに行稼ぎなのかスカスカだ。

ストーリーもどこかで読んだような凡庸なものばかり。

ファンが書いた同人誌かと錯覚する。

 

番外編なのだから、脇役も含めた登場人物のちょっとしたサイドストーリーが読めれば満足する読者も一定数いるかもしれない。

だが私は本編ありきではなく例えばの話、この短編集だけでも成立するような、1編の小説として読ませるような、そんな本を上梓してほしいと心の底から思う。

 

本編がおもしろかっただけに残念、の一言に尽きる。