「祝祭と予感」 恩田陸
恩田陸の小説はかなり昔に『夜のピクニック』『ネバーランド』『木曜組曲』を読んで以来手にとっていなかった。
なんとなく文章が合わない。
時々出てくるマンガの吹き出しのような表現に興醒めするのだ。
そんなわけで少し前に手にとった『蜜蜂と遠雷』は、なぜ読もうと思ったのか思い出せずにいる。
映画化や文庫化で話題になっていたからだろうか。
直木賞を獲ったことは読み終わった後知ったから、それが原因ではないはずだ。
とにかくあまり期待していなかったのだが、読み始めると予想に反して楽しく、ぐんぐんと読めた。
ピアノコンクールを舞台に参加者であるコンテスタントやその家族、友人、先生など多彩な登場人物が物語を彩っていく。
演奏シーンでは耳で聞く音楽を言葉にするのは難しそうなのだが、性格や資質に合わせて見事に書き分けている。
単行本の上下巻を一気に読み通し、とても満足してページを閉じた。
前置きが長くなったが、『蜜蜂と遠雷』の読了後すぐに番外編であるこの短編集を図書館で予約した。
だがしかし今回は逆の意味で予想に反していた。
同じ作者なのか疑うレベルの文章のまずさに唖然とする。おまけに行稼ぎなのかスカスカだ。
ストーリーもどこかで読んだような凡庸なものばかり。
ファンが書いた同人誌かと錯覚する。
番外編なのだから、脇役も含めた登場人物のちょっとしたサイドストーリーが読めれば満足する読者も一定数いるかもしれない。
だが私は本編ありきではなく例えばの話、この短編集だけでも成立するような、1編の小説として読ませるような、そんな本を上梓してほしいと心の底から思う。
本編がおもしろかっただけに残念、の一言に尽きる。