静かな生活

本、音楽、その他諸々の生活記録。同性年下の恋人あり。

「窮鼠はチーズの夢を見る」

f:id:konnavy:20200928140158j:plain

古今東西数多あるラブストーリー。

けれどもハッピーエンドの“その先”を描いたものは、案外少ないのでないだろうか。

『窮鼠はチーズの夢を見る』は“その先”の残酷さと真摯に向き合っている。

 

私は自分のセクシャリティもあって、同性愛ものは積極的に観るし、評価も甘くなる自覚がある。

さらに監督があの行定さんだと聞いて「これはもう観るしかない」と思い劇場に足を運んだ。なぜなら私の好きな映画トップ5に行定監督の『贅沢な骨』が19年以上も揺るぎなく入っているからだ。

 

 

優柔不断な性格から不倫を重ねる大伴。

その妻が雇った探偵が、大学の後輩である今ヶ瀬。

在学中ずっと大伴に片想いをしていた今ヶ瀬は、大伴の不倫の事実を妻に伝えない代わりに身体を要求する…。

 

導入部はBLにありがちなやや強引な展開である。

けれどもそうでもしないと物語が始まらない。

 

当然のごとく今ヶ瀬の要求はキス以上へとエスカレートする。

口では抵抗するものの今ヶ瀬を拒絶できない大伴。

なし崩し的に関係は深まっていくものの、2人は最後まで本当の意味で寄り添うことができない。

 

同性愛もののラブストーリーでは、もちろん性別が大きな障害となる。

劇中で大伴が言うとおり「なんで俺が男と付き合わないといけないんだよ」だ。

ここを乗り越えられるか乗り越えられないかが、どうしたって大きな山場となる。

本作も例外でない。

しかしもうひとつ、“成就した後はどうなるか”も本作の山場だ。

『贅沢な骨』では描かれなかった“その先”。

 

f:id:konnavy:20200928140154j:plain

 

今ヶ瀬はとにかく一途な男である。

けれども大伴のすべてを肯定しているわけではなく、むしろ2人でいても幸せになれそうもないことを予感しつつ「心底惚れるってすべてにおいてその人だけが例外になっちゃうってことなんですね」という開き直りにも似たどうしようもなさを抱えながら、その想いを止めることができない。

 

一方の大伴は拒絶することが苦手。

女性はもちろん、男性である今ヶ瀬のことも最終的には受け入れてしまう。

今ヶ瀬は大伴のそういった性格を把握した上で、言い方は悪いがその弱味につけこんで徐々に大伴の心を開いていく。

 

だがそうしたズルさのしっぺ返しは、ちゃんと自分に跳ね返ってくる。

大伴に受け入れられる前の今ヶ瀬は、とにかく受け入れられることに必死で、“その先”のことなどどうでも良かったのかもしれない。

けれど奇跡的に振り向いてもらえると、今度は失うことが怖くなった。

男である自分でさえ受け入れる大伴だ。

元カノや職場の後輩が大伴に近づいていくのをどうすることも出来ず、失う不安から、ただ苦しいだけの日々が続く。

そんな今ヶ瀬を大伴は救うことが出来ない。

 

かと言って彼が何もしなかったわけではない。

物語後半、ベッドシーンで今まで受け身だった大伴が攻める側に回る。

ここは大きな変化である。

私は女なので男性のその辺の事情はよく分からないが、少なくても相手に欲情しなければ能動的にはなれないのではないだろうか。

大伴の本音は分かりづらいが、ここにいちばん現れていたに違いない。

 

 

f:id:konnavy:20200928153732j:plain

 

正直ジャニーズと若手俳優が演じるにしては、かなり際どいベッドシーンに驚かされた。だがこの映画には必要不可欠なシーンだった。

思うところはあったかもしれないが、大伴役の大倉さん、今ヶ瀬役の成田さん、どちらの演技も素晴らしいし、行定監督の心の機微をうつしとる繊細さと美しい色彩感覚は19年前から色褪せていなかった。

 

ラストシーンの“その先”は私たちに委ねられた。

それはこの映画を観たひとりひとりが感じたまま思い描けば良いのだけれど、私は今ヶ瀬はもちろん大伴にも幸せな未来が待っていてほしいと願う。

 

「かがみの孤城」 辻村深月

f:id:konnavy:20200924185104p:plain

 

発売されたのが2017年の7月なので3年以上経って、ようやく読むことができた本書。

図書館に入ってきた当時は予約待ちが100人以上出ていた。

私の近所の図書館では10冊までしか予約ができない(そしてその枠はいつも目一杯使っている)ので、その時は諦めたがこの前ふと見ると待ち人数が0だったので、借りることにした。

2018年の本屋大賞1位にも選ばれたらしいので期待も高まる。

 

あらすじとしては、ある出来事があり学校へ行けなくなった中学1年生のこころ。

ある日自室の鏡が光りだし、潜り込むとその先にはお城があった。

そこにはこころを含めて7人の中学生いた。

この7人を集め、また城の主でもある狼の面を付けた少女“オオカミさん”は言う。

「3月30日までに城の中にある願いの部屋とその部屋の鍵を探しだした者の願いをなんでも叶えてやる」と。

 

ここから先は既読の方、もしくはネタバレOKの方のみどうぞ。

 

 

 

この物語には伏線がかなりの数仕込まれている。

それらのうちのいくつかは下記のために用意されたものだ。

 

1.7人は同じ中学に通えないという共通点があるが年代はバラバラ

2.“オオカミさん”の正体はレオンの姉

3.喜多嶋先生はアキである

 

私の場合、1についてはすぐに分かった。

作中何度もヒントが出てくるので、大半の人は種明かしされる前に気づくだろう。

それだけに登場人物たちが真相を見抜けないことに違和感を覚える。

マサムネが自分がやっていたゲームのように、みんなの世界は枝分かれした並行世界(パラレルワールド)ではないかと言い出すが、そんなことより来た年代が違うという結論のほうを早く思いつくのではないだろうか。

その辺りに作者都合が垣間見えて、どうもなぁと首を傾げてしまった。

 

続いて2。

これもリオンの姉にまつわる記憶をこころが読み取ったときに、きっとそうなんだろうなと予想できた。

しかしその場面は物語のかなり終盤。

それ以前の伏線はハワイに留学中のリオンに姉は日本にいるということのみ。

なにか事情がありそうな雰囲気はあったが、姉は実はもっと前に亡くなっていたことは前記のシーンまで明かされないため、姉=オオカミさんであることを先に見抜いた人はすごく勘が良い。

 

最後に3。

これは最後の最後まで見抜けなかった。

ヒントはアキとスバルが喜多嶋先生に会ったことがない、ということぐらいか。

 

そのほかにも、スバルの将来の職業や私が気づいていない伏線がまだまだあるのかもしれない。

 

だが私の感想としては、1はヒント過多、2・3は極小という偏り具合に、フェアじゃなさを感じてしまう。

純粋なミステリーじゃないから、と言われれば、それまでなんだけども。

 

物語としては面白かったし、私が10〜20代前半くらいならもっと楽しめたかもしれない。

 

ただ私が昔考えていたことを思い出すきっかけにはなった。

それは子供が学校で過ごす時間や生活を、大人目線でこの世界のほんの一部にすぎないとあしらわないこと。

 

大人になった今は学校以外にも居場所はあるよと簡単に言えるけれど、私だって中学生の頃は学校の中の世界が全てで、その世界での失敗=人生が終わったレベルの絶望を感じもした。

もし自分の近くにいる子供たちが悩んでいるようなことがあれば、親身になってあげられるようその感覚は失いたくないと思う。

 

 

 

文学作品エコバッグ『こころ』

f:id:konnavy:20200921111522j:plain

 

レジ袋が有料化されたこともあり、欲しいと思っていたエコバッグ。

会社の近くにある本屋さんでちょうど良い小さめサイズのものを見つけ、お買い上げ。

 

有名な文学作品をモチーフにしたもので、『こころ』『銀河鉄道の夜』『ハムレット』『森の生活』『道程』『赤毛のアン』の6種類。

 

私は見ての通り『こころ』を選びました。

銀河鉄道の夜』と迷ったけれど、なんだかんだで私は漱石推しなのでこちらを。

有名な先生の科白「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」が大胆にデザインされています。

 

某大型書店では160円で販売されていましたが、私が買ったお店では100円でした。

個人経営の小さなお店です。

これまではたまに立ち寄っても売れ筋の本ばかりで私が欲しいタイプの本は見つからず....。

けれども町の本屋さんを応援した気持ちは人一倍あるので、たとえ100円でも今回貢献できて嬉しかったです。

 

しかもこれ、買ったその日に買い出しを頼まれ、大活躍しました!

 

仕事用のカバンに常備して大切に使っていきたいと思います。

 

「コンフィデンスマンJP プリンセス編」

f:id:konnavy:20200813090546j:plain

 

脚本が『リーガル・ハイ』や『デート〜恋とはどんなものかしら〜』の古沢良太さんということで、楽しみにしていたドラマ『コンフィデンスマンJP』。

しかし始まってみると戸惑ってしまった。

これ、どう楽しめばいいの?

 

そもそもコンゲームってもんは、知らずに観るから面白いのである。

大々的に謳われていると、嘘なんじゃないの??と、はなから疑って観てしまうから、面白さが半減する。

 

同じような人が多かったのか、ドラマの視聴率はいまいちパッとしなかった。

だが途中で本作の映画化が発表される。

その時の私の感想は「やっちまったなフジテレビ」。

 

時々最初から劇場版をつくることが決定しているドラマ作品があるが、コケた時のこと考えてないのかと首を傾げることがある。スシ王子とか…。

 

だが蓋を開けてみれば、劇場版第1作のロマンス編は大ヒット!

ごめんなさい、フジテレビ。

先見の明がありますね!と手のひら返しする私。

 

とはいえ、こうも思う。

このドラマの良さは1回観ただけでは伝わりにくい。

私は古沢脚本を諦めきれず、結局最後までドラマを観たのだが、3回目辺りでようやく楽しみ方を会得することが出来た。

 

それはダー子、ボクちゃん、リチャードが騙す側であることが大前提で、どこからが嘘なのかを楽しむ、ということ。

当たり前のことを言うな、と思うかもしれないが、けっして当たり前ではない。

 

通常のコンゲームでは観客は仕掛けがあることを知らないで観て騙されることを楽しむ。

しかしこのドラマは最初から嘘つき3人組なことを承知の上で、どこからどこまでが嘘なのかを予想しながら観る。

つまり従来とは全く異なる、今までにない新しいコンゲームの楽しみ方なのだ。

 考えてみると最初に必ずこう言ってくれているではないか。

『何が本当で 何が真実か』。

さすが古沢さんである。

 

ドラマの前半だけ観て脱落した人はもったいないとは思っていた。

疑って観ているのに、必ずひとつは「え?そこも嘘なの?」と驚く。

今回のプリンス編でもころっと騙されてしまった。

これって実はすごく難しい。

 

映画がヒットしたのは、再放送やスペシャルで楽しみ方を理解した人が増えたからだろう。

 プリンセス編についても詳しく言いたいけれど、まだ公開中なのでやめておきます。

 

 

最後に。

三浦春馬さんをスクリーンで観ることが出来て良かった。

ジェシーありがとう。

 

 

「靴ひも」 ドメニコ・スタルノーネ

f:id:konnavy:20200806174116p:plain

久しぶりのイタリアの小説。

ウンベルト・エーコー以来かもしれない。

 

この小説は3章で構成されていて、それぞれ語り手が異なる。

1つの家族の歴史というか変遷なのだけれど、1章は怒りや悲しみが嵐のように吹き荒れているので、読んでいて気が滅入ってくる。

2章はミステリーのような側面と1章を補う独白、3章は1〜2章が与えた影響と種明かし、といったところだろうか。

 

大団円でもないし、登場人物の誰にも共感できないのだけれど、それでいて靴の中の小石みたいなひっかかりを覚える。

 

タイトルの『靴ひも』は日本語だと文字通り靴の紐でそれが物語の重要な鍵となっているけれど、イタリア語では“縛る” “結わえる” “絆”という意味も内包しているらしい。

 

登場人物全員が家族に縛れられ、離れ、引き戻される。

家族というものは良い意味でも悪い意味でも、絶大な力を持っている。

特に別れることのできない親子は、悪い方に走れば悲劇にしかならない。

 

親が子供を損なうとどういうことになるか、私には子供はいないし持つ予定もないけれど、少し怖くなった。

 

 

 

「猫を棄てる」 村上春樹

 

f:id:konnavy:20200728194014j:plain

本屋さんでこの本を見かけたときには驚いた。
あの村上春樹が自分の父親をテーマにしたエッセイを書いている!!

これはハルキストなら刮目したのではないだろうか。

 

ハルキストと名乗るほどではない私でも「これは…」と戸惑ってしまった。

なぜなら村上春樹という人は、親子というテーマには常に一線引いていたからだ。

 

これまでもエッセイでは両親と「あまりうまくいっていない」「距離がある」ということは、語られてきた。

そして自身に子供がいないということもあってか、小説の中に親子はほとんど登場せず、出てきてもどことなく作り物(騎士団長殺しの主人公と娘とかね)のような、血の通ってなさが見受けられた。

 

なのでこの先もこのテーマには触れずに行くんだろうな、と思っていたのに、そんな思い込みをぶち破ってくれました。さすが村上春樹

 

読む前は「猫を棄てる」というタイトルから、愛猫家の作者が猫を捨てさせられた恨みをネチネチ書いていたらどうしよう、と思ったのだが読んでみて、うん、そうだよね、そんな単純じゃないよね、と。

 

ここからは完全に私の推測。

 

父から子に託された想い(簡単にまとめすぎているのは分かっている)があって、それを子供を持たない村上春樹は、そして作家でもある村上春樹は、こういうかたちで次に繋げたんだな、きっと。

 

あとひとつ。

村上春樹はそろそろ先を見据えた仕事をしているのだはないだろうか。

いつまでも若いイメージだけど、もう71歳。(長生きしそうだけどね)

この辺りでしこりの一つを解消しておきたかったのかもしれない。

思い返してみれば『職業としての小説家』で小説の書き方をつまびらかにしたりもしている。

これは自分のあとを受け継ぐ世代のことを考えての行動とも考えられる。

 

そういえば前にそういう時間があれば小説に使いたいからテレビやラジオには出演しないと言っていたけれど、今は不定期で『村上RADIO』もやってるし、やっぱり何か心境の変化があったのではないか。

まぁただのきまぐれの可能性もあるけども。

 

最新小説の『一人称単数』は短編集なので今から楽しみです。

図書館の予約がまだ始まっていないので、いつ読めるかさだかではないけれど。

本人は長編小説家とおっしゃってますが、私は短編の方が好きです。

 

DOVO ハサミ 6インチ

半年以上前に無印のものが壊れてから、ずっと探していたハサミ。

そうそう買い換えるものではないし、だとしたら高くても良いから納得できるものを…と探し続けて、やっと購入に踏み切りました。

とにかく見た目が好き。

 

f:id:konnavy:20200627201128j:plain

この鋭い刃先と持ち手もすべてステンレスできりっとしている姿に惚れました。

メーカーは刃物で有名なドイツ・ゾーリンゲンにある老舗メーカー(らしい)のDOVO。

大阪や京都などのお店をいくつ回っても理想のハサミに出会えず、妥協しようかとも思っていたところ、ルクアの文房具店でこのメーカーのものを見つけました。

けれどそれは、かたちは好みだけれども持ち手に色がついているのが気に入らず、他の商品も見たくてメーカー名で検索してみて、ようやく巡り会えました。

 

とはいえ実物を見たくても近くのお店にはなく、値段もハサミにしてはそこそこするので、また躊躇してしまう…。

 

だがしかし!

DELFONICSさんが週末10%オフキャンペーンをしてくれたのに背中を押され、やっと買うことができました!

いやー長かった。

 

 使わないときは付属のふくろにしまえます。

f:id:konnavy:20200627201156j:plain

 

持つとこんな感じ。

大きすぎず小さすぎず。

刃の部分は鏡面仕上げ、ほかはマットな質感。

f:id:konnavy:20200627201148j:plain


よく見るとメーカー名とサイズが刻印されてます。

f:id:konnavy:20200627201136j:plain


 

しばらくハサミなし生活やってみて分かったけれど、生活必需品ですよね。

カッターやレターオープナーだけでは限界がある。

 

ちなみにレターオープナーは前職を辞める際に後任の新人さんにいただきました。

ご家族が職人さんとのことで、こういったものをつくられているらしく、手触りも良いし、なによりとても使いやすく愛用してします。

f:id:konnavy:20200627201207j:plain

 

話は逸れましたが、ようやく手に入れたハサミ。

大切に使っていきたいです。